「凜久、似合ってるよ」

傘に落ちる滴の音を楽しむ余裕もないくらいのどしゃぶりなのに、ニコニコの瑠璃。

一見、普通のブーツに見えそうな黒のレインブーツ。


雨に濡れた紫陽花、葉っぱの上のかたつむり。

カエルの合唱。


部屋の中ばかりにいた俺には、どれもすごく新鮮で。


いつだって瑠璃は、俺を狭い世界の中から連れ出してくれる。



「瑠璃、髪濡れてる」

なんて、嘘だけど。

だって、レインコートのフードまで被っちゃってるし。


「え、……嘘」

前髪に触れようとする腕を少し強引に掴んだ。




少しずつ顔を近付ける俺に、瑠璃も気付いたらしく。


「……や、凜久…人……」

なんて、周りを気にしてる。


「大丈夫だよ、ほら」

持っていた傘を少し傾けて。


視界を遮ってしまえば、僅かに切り取られたふたりだけの時間。


冷たい唇に触れれば、疼き出したキモチに拍車が掛かるのが分かった。





「――来て、」

瑠璃の腕を引っ張って、公園の奥にある神社の裏手まで連れてきてしまった。


本当、スイッチが入るタイミングなんて自分で制御出来ないな……なんて呆れつつ。


目の前の瑠璃はというと、赤い顔で俯いてる。

その格好からして、お母さんに怒られてしょげてる子供みたい。