「……すごい」
まるで、夢の中にいるみたいな。
淡いピンク色は、藍色をバックに柔らかい照明でライトアップされて。
夜桜の見るのは、初めて。
だけど、これほどまでに心を揺さぶられるなんて思ってなかった。
繋いだ手から伝わる凜久の体温だけが、どうにか私をつなぎとめていてくれた。
時間を忘れた私は、視界いっぱいに広がる景色をただ眺めていた。
ハッと元の世界へ戻ってくると、前にいたはずのあおい達がいなくなっていて。
今は、妖艶な魅力をふりまく桜が咲く小さな世界に凜久とふたりきり。
「気を利かせたつもりなんだろうね」
凜久がポツッと呟くと、ようやくこの雰囲気に気付く。
どうしよう……
急に、恥ずかしくなってきちゃった。
だって……こんな綺麗な世界にふたりきり。
朝とはまた違った魅力を振りまく桜は、見ているこっちまで不思議な気分にさせられて。
酔いはもうとっくに覚めてるハズなのに……
桜に――酔わされてしまう。
「あっち行こ」
急に凜久が手を引っ張るから。
私は胸の高鳴りを静めさせる余裕もないまま。
メインの道から、脇道にそれた。
凜久に連れられたまま、しばらく歩いていくと。
「……っ」
目の前に急に現れた、今まで見てきた桜の木を遥かに超える、大きな木。