少年は諦めたように、脱力感たっぷりで再び元の位置に腰かけた。
そして、はぁ~と大きな溜息を付く。
『…もっと大人しくて可憐な子だと思って声かけたのに……』
本気で肩を落として歎く彼に、私は頬を膨らませながら言葉を投げる。
『…悪かったわねーガサツで我が儘なおばさんでっ』
彼はまだ脱力した表情を引きずりながらも顔を上げた。
『…別におばさんじゃないでしょ。3つしか違わないし。それに…どう見ても…おねーさん高校生だよ?』
確かに…いくら髪を染めてメイクをしていても、私の生まれついた童顔はそう簡単に隠せてはいなかった。
茶髪でメイクをした高校生なんて、決して今時珍しくなんてない。
童顔を少し気にしてはいたものの、ツンとしていたはずの頬がつい少し緩んでしまう。
『………若い…って言ってくれてるわけ?』
そう言うと彼はクッと笑って、白い歯を覗かせた。
トクン…
心臓が小さく反応してしまったのを感じた。
こんな…無邪気な笑い方もするんだ…
むしろ、この笑い方の方が彼にはしっくりくるような感じがした。
さっきまでの穏やかで優しい微笑みよりも、こっちの方が、彼から滲み出る微かな幼さを引き立てていると思った。
でも、彼の無邪気に零された笑顔に私の心臓が反応した理由は、それだけではなかった。
いつも…
穏やかに微笑む透…
私が大口を開けて笑っても
馬鹿なことをやらかしても
切れ長の瞳を細めて優しく笑う透…
その大人を感じさせる仕種にいつも胸をときめかせていた。
けれど
いま
改めて気付かされた。
無邪気に溢れるこの彼のような…
こんな笑顔を…
透のこんな笑顔を…
私は…
見たことがなかった………