どうしてあそこで彼が去るのを引き止めたのか。

別にたいした理由なんてない。

それに、この時の私は…

透に二度と会うことができなくなるなんて

そんなこと想像もしていなかった私は

その行為に理由を付ける必要さえも感じていなかった。


強いて言えば、透への当て付けだったかもしれない。


透が私に内緒で違う女の子と街を歩いていたように

私だって透以外の男の子と一緒にいてやろうと

そう思ったのかもしれない。


別に誰でもよかった。


もし透があの後、私を追い掛けて此処まで来て、
私がこの人と一緒にいるところを見たならば、

それはそれで好都合だと思った。


あの時の

街に消えゆく二人の姿を見たあの時の私と同じ気持ちを

むしろ透にも味あわせて、

後悔の気持ちでいっぱいにさせてやりたかった。


…今思えば……

何て卑屈な考えだったのだろう…。

何て自分勝手な考えだったのだろう…。




でも

この時の私は


どうしても透の小さな裏切りが許せなかった。