『そんな薄着で寒くないの?』
『…え?』
ふと真上から声がして、顔を上げる。
花壇に腰掛ける私を見下ろしていたのは、一人の少年だった。
絶え間無く人が行き交う街中で
私と彼のいる一角だけが
不思議と時間が止まったようだった。
10代後半くらいであろうこの少年は、耳にピアスを数個も開け、明るい茶色に染まった髪をあらゆる方向に立てていた。
『え…あ…いや……』
突然見知らぬ人に話し掛けられたことに動転し、視線をそらす。
すると彼は躊躇うことなく、いきなり私の横に腰を下ろした。
『!?』
怪訝そうな顔で彼の横顔を見つめる。
何…?
ナンパ…?
『……俺…温めてあげよっか?』
『……は?』
私の隣で行き交う人を見つめていた少年は、ゆっくりと私の方を振り向く。
呆気に取られすぎて、視線をそらすタイミングを逃してしまった。
真っ直ぐな薄い茶色の瞳は、何処かその髪色よりも深いものを感じさせる。
少年は私の瞳をじっと見つめたまま悲しそうに呟く。
『……なんか…寒そー…だから……』
私は怪訝そうな表情のまま自分の身体に視線を落とす。
透の部屋に置き忘れたカーディガン。
寒いのはカーディガンがないからか
透の温もりがないからか。
私は両の手で自分の身体をギュッと押さえ込んだ。
『…上着……持ってくんの忘れちゃって……』
私が俯いたままそう零すと、彼は続けて呟いた。
『…いや………そうじゃなくて……』
え…?
私はゆっくりと顔を上げる。
再びぶつかる深い視線に何故だか胸が熱くなった。
悲しくて
切なくて
深い…瞳。
私はその瞳を知っている気がした。
彼はふと私の右腕を握り締める。
私は戸惑いながらも何故か振り払えないでいた。
そして彼はその私の右手を、私の左胸に当てさせる。
導かれるように左胸に当てられた、自らの右手…
『え……?な…』
『こっち……』
『………?』
『…寒そうに見えたの……身体じゃなくて………こっち……』
右手が
トクンと心臓が血を送り出すのを
感じた。