いつものスタート地点に立った翼は、自分が緊張しているのを十分に理解していた。

この地獄の鬼ごっこの初日に感じた…

いや、緊張という点では、あの日よりも強い縛りを感じていた。



「スーハー…スーハー…」



落ち着きのない心臓を、深呼吸でどうにか静めようとするが、なかなか上手くいかない。

居ても立ってもいられない翼は、未だに鳴らない笛に痺れを切らし、ストレッチを始める。


…と、その瞬間、



《ピィーッ》



という、甲高い笛の音が鳴り響いた。







始まった。






翼は一瞬、ピリリと電気が走ったような感覚を指先や足先に抱いたが、それを振り払うように、



「タイミング悪っ。」



そう呟くと、ストレッチを止め、上体を起こし、ゆっくりと走り出した。



今日は、まだ開始直後だというのに、心臓が騒がしく、肺に圧迫感がある。

予想以上に固まっている自身の体に危機感を感じながらも、翼はただ走るしかなかった。