校舎に入る直前、誰かに肩を叩かれた翼は、くるりと振り向く。
その先にいたのは、やはり颯太だった。
「なぁ、さっきの…」
「分かってる。話は朝練の後だ。」
言いたいことは分かっていたし、颯太が話し掛けてくるのではないかという予想も十分たっていた。
「だよな。あいつ怒らせちまったら、マジで生存率が0になる。」
颯太は、チラリとグラウンドを見て、目で鬼城を示した。
「じゃあな。」
颯太に短くそう言って、校舎に入って行こうとすると、後ろから、
「生き残れよ。」
という、不安げな声が聞こえたので、何も答えず、固く結んだ右手を軽く上げた。
そして、いつものように自分のクラス前の廊下へと向かった。
実際、わからなかった。
一体が三体になったことで危険度が増したのは確かだが、それがどれ程の増加で、どれ程の遭遇率なのか…
不安が渦巻く中、昨日までとは全く違う、格段にレベルアップした鬼ごっこが始まろうとしていた。