音などは聞こえなかった。

叫ぶ者もいなかった。


だがしかし、その場にいた鬼城以外の全員が、ハッと息を呑んだことで空気が僅かに振動した気がした。




驚きと恐怖で呆然とする部員達を見て、鬼城はニヤニヤと笑う。

あの翼でさえ、鬼城を睨むことも忘れ、先程放たれた空気振動を音声だと認識し、その言語の意味を理解するのに必死だった。



「では、朝練を開始する。校舎に入れ。」



部員達を早く恐怖の闇に放り込み、その様を観賞したいと思っている鬼城は、それ以上に罰の内容には触れず、指示を出した。

しかし、部員のほとんどが未だに鬼城の言葉を受け止め難いらしく、突っ立ったままだ。

鬼城は少し苛立ちながら、笛を力強く鳴らし、静かに怒鳴った。



「早く校舎に入らんか!罰を増やすぞ!」



ショックが大きいからといって、さすがに鬼城の怒声を聞いても動かない者はいなかった。


ただ、翼だけはいち早く自我を奮い立たせ脳回路も起動し、鬼城をいつも以上の憎しみを込めて睨みながら校舎へ入って行った。