食卓は賑やかで、俺は取り残されたようにその光景を見つめていた。
「ねぇ、兄ちゃん」
隣から、声が聞こえた。
「ん?」
顔を向けると、及川さんのお母さんによく似た丸い大きな目と目が合った。
「兄ちゃん、なんで笑ってるの?」
口に小さく手を添えて、こっそりと俺に聞いてくる姿がむちゃくちゃ可愛くて、俺も口に手を添えて小さな声で返事をした。
「俺、笑ってた?」
「うんっ」
返事をしたのが嬉しかったのか、さっきよりも少し大きな声が返ってくる。
「そっか(笑)」
無意識に笑っていたなんて、自分でも少し驚く。
俺…かなりはまってんなぁ…
『好き』だと自覚してから、この感情は何かのウィルスのように俺の体中に深く広く浸透しているような気がする。
ツンツン
「ん、どした?」
小さな指で服の裾を引っ張られる。
「兄ちゃんの名前なんていうの?」
目をキラキラさせて自分の名前を聞かれるなんてあまりなくて、なんだか少し気分が良かった。
「俺?俺は、ふじわらそうって名前」
小さな口が「そう兄ちゃんかぁ」と確認するように呟くのが見えた。
すかさず、「お前は?」と聞き返してみる。
「俺は2ねん1くみ、おいかわ あお!!」
両手をぐっと握って、勢い良く言う姿にまた、笑った。