薄暗くなり始めた教室で、私はまだカーテン越しに抱きしめられたまま、何も言えずに立ち尽くしていた。
「ごめん、急にでビックリさせたよな…」
申し訳なさそうな声が頭の上から聞こえてくる。
何か言わなきゃって思うけど、口が思うように動かなかった。
ゆっくりと、腕の力が緩められる。
カーテンがほどかれて、藤原創の困ったような笑顔が目に入ってきた。
「これって…セクハラかな?苦笑」
緊張している私を和ませるために、彼はいつもの明るい声でそう言った。
何も言えずにいる私の頭に、ポンと彼の手がのせられる。
「返事とかは、いいからさ。
困らせてごめんな。
でも、知ってて欲しかったんだ」
何を知っててほしかったんだろう?って思うけど、声が出なくて、彼の顔を見上げた。
「俺は何があっても、及川さんの味方だから!
それに、俺は男だからさ!!
及川さんが心配するようなことはゼッテーないから!!」
「…あり…がとう」
声に出して言った言葉はすごく頼りないものだったけど、彼にはちゃんと届いたみたいだった。
「…俺が、及川さん守るから。
だから、信用とかはまだできないかもしれないけど、
いつでも頼って。
俺、そんくらい及川さんのこと大事なんだ…」
彼のこの優しい言葉を、一生忘れないでいようと、この時誓った。