「無理に…言わなくていいよ」
真っ暗な中でも、彼女が青ざめているのがわかる。
唇が震えているのも、多分気のせいじゃない。
幸せなのに、辛い過去を必死に彼女は語っていた。
だから
彼女が言おうとした最後の言葉を言わせたくなかった。
俺も聞くのは辛いと思った。
最後の言葉がなんだったのかわかったわけじゃないけど、きっと、彼女は言いたくて言うわけじゃないって思ったから。
「無理、しなくていいんじゃない?
幸せな記憶まで、悲しい記憶に塗り潰されるのはやっぱ辛いんじゃない?」
言葉を途中で遮られた及川さんは、静かに俺を見上げていた。
泣くでもなく
笑うでもなく
驚くでもなく
ただ
静かに
瞳に夜空の星を浮かべて
見上げていた。