コンコン

「入ってくれ」

「失礼します」

エレベータを使い、最上階に着くとそこは一面硝子張りで景色が一望できるフロアで

磨りガラスで出来たドアを開け中に入るとシャツにジーパンというかなりラフな格好をした三十代前後の男性が笑顔で出迎えてくれた

「やぁ。笹倉くん、待っていたよ」

「予定より5分程遅れてしまい申し訳ありません」

「別に構わない」

男は柔和な笑みを浮かべてチラリと私をみやる

「笹倉、この子が?」

「はい。隣にいるこいつが架山菜月です」

ポンッと背中を押されて一歩前へ踏み出る

こいつって…ちょっと素が出てますよー

なんて言えず、ほんの一瞬だけ笹倉さんを睨んで徐に男の顔を見上げた

ニコニコと貼り付いた笑顔を崩さずに私を見下ろす男に私はおずおず頭を下げる
「初めまして。架山菜月と言います」

「そんなに畏まらなくてもいいよ。私は佐野泰伸(サノヤスノブ)だ。一応、社長という肩書きだがな」

ハハッと優しそうな顔で笑っているが、目の奥は酷く冷たい…

表情だけでは何を考えているのか分からず、僅な恐怖をおぼえて反射的に後ずさる

笹倉さんは目敏くそれに気付いたが、何も言わず話を進めた

「話は秘書から聞いてる。まさか君がこの子を助手に迎えるとはね…」

「一応ここに泊まらせるんですから、それ相応の働きをしてもらおうかと思っただけです」

「相変わらず手厳しいね君は」

おどけたように肩をすくめると、佐野はこの広い室内に一つだけあるデスクへ向かうと、引き出しから一枚のカードを取り出した