「昔々…すごく歌が上手い女の子がいました。


彼女には一緒に演奏する大切な仲間がいて…大好きな人がいました。


仲間の一人に恋をした彼女は思い切って呼び出し、大好きな彼に長年秘めていた自分の想いを告げました。



しかし…彼は突然の告白に動揺し、何も言うことが出来ませんでした。」


その時…柳井の瞳がほんの少し揺れたのを私は見逃さなかった


「彼女はそれを否定と受け取り、今にも泣きそうな顔でニッコリ笑うと、手を振りながらその場を後にしました。



…一人残された彼は考えました。今まで仲間と過ごした楽しい日々を…幸せな日々を…


それは、彼女なしでは考えられなかったことを」

懐かしむように次々と言葉を紡いでいく柳井

誰の話をしているのかは容易に想像できた



だからといって口を挟むことはせず、黙って柳井の背中に揺られながら聞いていた