私の母は、私を産んで体が弱くなってしまった。
それから母はずっと入院している。
まだ幼かった私は、幼稚園で習った歌を母に聞かせようとよく病院に通っていた。
それは私の日課であり、唯一の楽しい時間だった。
走ってはいけないと教わっても、嬉しさがいっぱいでいつも走ってしまう。
そして母の名前が書いてある病室のドアを開ける。
「お母さん!!」
息を切らしながら母を呼んだ。
「お帰り、陽菜。また走ってきたの?」
白い病室にまぶしい日差しを浴びながら少し怒った口調で言った。
「だってぇ…お母さんに早く会いたかったんだもん。」
「次からは走っちゃダメよ。」
「は~い!」
ここに来るたびに同じような会話をしている。
そして、幼稚園でどんなことをしたのか、何があったのか、いろんな話しをする。
母はにこにこしながら聞いてくれる。
それが嬉しくてたくさんいろんな話しをする。
一通り話したら、幼稚園で習った歌を歌う。
白くまぶしい病室の中。
開けた窓から入ってくる風を体中に浴び、歌い始めるべく息を吸う。
歌っている間は体がふわふわして、まるで雲の上で歌っているような感じになる。
「ありがとう、陽菜。お母さん、陽菜のお歌大好き。」
「ひなも好き!」
私は母に抱きつき、母は優しく頭を撫でてくれた。
「うふふ、そう。なら良かったわ。」
母は優しくおだやかに微笑んだ。
「お母さん、ひな、明日もここに来ていい?」
「えぇ、もちろん。明日も陽菜のお歌聞かせてちょうだい。」
日差しを浴び、綺麗に微笑む母に私は元気いっぱいに返事をした。
それから父が迎えに来るまでずっと歌を歌っていた。