「…ねぇ」
「ん?」
「相模も弱みに付け込むとか考える?」



この状況を
利用しようと考える…?


相模の手が不意に動いて身構える。
でも私の予想を他所に、その手はテーブルの端にあった灰皿を引き寄せただけで
相模は私が示した反応を見て苦笑した。


「ご期待に添えなくて申し訳ないけど、俺は力でねじ伏せたい訳じゃない」
「期待じゃなくて警戒よ警戒!」
「ふぅん。男の部屋にひとりで来ていてよく言うね」


煙草に火を灯し、相模が上目がちに私を見る。

言いようのない『雄』の匂いを感じ、再び身体を強張らせたけど
その様子に相模はふっと鼻で笑った。


「冗談。安心しなよ。それで得るものなんてその場限りの発散だけだ」



ふぅっと吐き出した煙が部屋の中に雲を作り、空気に溶けてすぐに消える。
そういう快感を好む人間は、煙草みたいな嗜好品を摂取するのと変わらない感覚で
行えてしまう、のだろうか。


「多分、彼も今頃後悔してるんじゃない?」


灰を灰皿に落としながら相模は呟いた。