「あらら、派手にやったなぁ」


ふと、男のひとの声がした。


私は両手と両膝を床についた状態で、顔を上げた。

――ナカヤマ先生だった。

先生は、ぐちゃぐちゃになってしまったお弁当を、素手でひょいひょいと拾い上げてくれる。


「先生――」


「もったいないな。せっかくの弁当」


「……」


私、みっともない……。

私はよろよろと先生と一緒になって片付けを始めた。

「なんか、ララ、元気ないなぁ」


――“ララ”。


先生は、生徒のことを呼び捨てで呼ぶんだ。


なんか、フレンドリーで、そういうの、いいよね。

そんなところが、人気なんだ。


だけど、私のこと、元気がない、って……。


「いつもにこにこしていて、明るくて、そんなララなのにな」


ナカヤマ先生は、去年、数学の教科担任だった。


数学の時間にしか接したことなかったのに……。


「……、なんだか、友だち、できなくて……」


ちゃんと、生徒のことを見てくれているんだな。


そう感じながら、私たちはかがんだまま、今はゴミと化したお弁当を拾った。

「そうか。……まあ、席の配置も悪かったよな。俺が2組の担任に決まる前に、学年主任が決めた席なんだが……席替え、しないとな」


私は即座に首を横に振った。


もう出来上がってしまっているグループの中に、溶け込んでいくことなんてできない。


今は男子側の席だけれど。

女の子に囲まれての席で、ひとりぼっちだと、ますます孤独を味わうことになってしまう。  


去年は、どうだったっけ。 


入学した途端に、ちーちゃんの方から声をかけてきてくれて……。


自然と、由香とさっちんと仲良しグループになったんだっけ。


友だちって、難しい。


自然となるものであって、“つくる”ものではないんだな――。