「おはよー」


徹夜で眠くなるどころか、逆にギンギンに冴えてしまったあたまで、教室に入った。


すでに登校していたカズくんに、……昨日の、キスのことは気にせずに、あくまでも普通に声をかけることができた。


「おう、おはよう」


カズくんの方も、特別変わった風はなく、自然にあいさつを返してくれた。 

今、私が気にかかっているのは、芳(よし)くんのことの方。


明け方、公園で眠っていたのは、小1時間ほど。


突然、体をぴくっと震わせたかと思うと、そのままむくっと起き上がって、そしてそのまま原付で家へ戻った。


自分の家に戻ってから、芳くん、どうしただろう。

ちゃんと、学校に来られるのだろうか。


「――どうした?」


不意にカズくんが、声をかけてきた。


「え?」


「目が赤い」


「ああ――眠れなくて、さ」


“芳くんと一緒で”――とは、何となく、言わないでおいた。


――何となく。


「ああ、ララちゃんも寝つき悪いのか」


「うん。だから新学期早々、遅刻ギリギリで、コケて膝から血流したのよ」


私が笑いながら言うとカズくんも、ふっと笑みを見せた。


「もう、膝の具合はいいのか」


「うん。もう、血は固まったよ」


「よかったな」


「おかげさまで」


カズくんは、昨日のことは何も触れず、まるで何もなかったかのように接してくる。


――あれは、夢だったのかな。


私の、勘違い?


――いや、覚えてる。


保健室で、アップになったカズくんの、目の下の小さなホクロ。


今、ここからの距離だと、確認できないくらい小さなもの。


そして、唇に触れた、あの柔らかい感覚。


うん。


――夢なんかじゃ、ない。