「えー。マジかよ」


そう言い放つと、ややあって、やっと芳くんは体勢を元に戻した。  


「何やってんだよ、アイツ。信じられねーよ。何、俺の寝てる横でそんなことしたんだよ」


そう言うと、木でできたテーブルに両手を乗せて、芳くんはうな垂れた。


「――ごめん」


「いや、別にそんなんじゃないんだ。アイツ、たまに解らないとこあるからさ。逆にごめん。カズの奴に代わって謝るよ。ごめん」


「いやいや、何も芳くんが……」


謝ることないよ、と私は言おうとした。それでも、“何だよ、アイツ”などとブツクサ呟く芳くん。


「……なんで、ああいうことしたんだろ、カズくん」

「解んねーな、俺も。……ただ、アイツは悪い奴じゃないし、色魔でもないからな。気に入ったんじゃないか? ララちゃんのこと」

芳くんは、チーズをぶらぶらと揺らしつつも、ふっと私を見る。


「――……」


「……ファーストキス、だった?」


私はその言葉に、素直に首を横に振った。  


私は素直に、首を横に振った。


「……そっか。なら、……まだ、よかったじゃん」


「――ん」


私もチーズをついばんで、何となく頷いた。


しばしの沈黙のあと――芳くんの方が口を開いた。

「――何、ララちゃん、彼氏いたことあるんだ?」


私をちらりと見遣って、彼は尋ねてきた。


「ああ、うん」


「中学の時?」


「うん。中2の時。半年だけ」


「それは――自分から、告ったの? 好きだって言われたの?」


たて続けに質問してくる彼。


私は苦笑して、


「何でそんなにつっこんでくるの?」


と、逆に質問を返した。