くくく。カワイーの。


なんて、思っていた、ところ。


それは、突然で。


一瞬のこと、だった。


ふと、サッと視界が翳って、カズくんの顔が近づいてきたかと思うと。


――唇に、キス、されていた――。


彼の顔がゆっくりと離れると、私は呆然としたまま彼の顔をじっと見つめていた。


「――」


「――」


カズくんは、口を真一文字に結んだまま、じっと私を見返している。


くりくりした目。彫りの深い目鼻立ち。


私たちは、無言で、しばらく見つめ合っていた。


やがて、遠くで保健の先生の声がした。


「もうすぐ授業始まるわよーぅ」


私はその声にはっと我に返って、立ち上がった。


「――戻るか」 


そこで初めて、カズくんが口を開いた。


私は黙ったまま、同じく無言で、歩く彼の背中を追うように教室へと戻った。


午後の授業は、ずっと不思議な気持ちで、肩の細いカズくんの後ろ姿を見ていた。


どうして、あんなこと――。


キス……だなんて、昨日仲良くなったばかりなのに。

――カッ。


今頃になって、照れが全身を襲ってきた。


体が、熱い……。


キキキ、キス、だなんて、久しぶりのこと……。


いや、そんなことよりも。

カズくんは、どうしてあんなことしたの?


しれっとしたまま、黒板の文字を書き写している彼。

ああもう、解んないよ。