じゃあ、芳くんは今日もこのままずっと動かないのかな。


なんて、天然パーマ気味の茶色い彼のあたまを見ながら思っていた。


カズくんの言ったとおり、芳くんは1時間目のナカヤマ先生の数学の授業も眠ったままだった。


2時間目の英語の授業は、寝相(?)が悪いのか、机からずり落ちそうになって、慌ててカズくんに支えられていた。


鼻血出したり、眠ったり、忙しいひとだなぁ、なんて。


私は後ろから苦笑して彼を見ていた。


けれども、3時間目――。

物理の先生は、厳しそうなおっさん先生で。


教室へ入るなり、朝から引き続き机にうつ伏して寝ている芳くんをちらりと見遣った。


始業の挨拶の号令でも起立しない芳くんを、眼光を光らせて見ていた。


薄い頭髪を七三に分け、真四角なメガネをしている先生は、教卓の座席表を確認すると、


「佐取和芳!」


窓がビリビリと震える大きさで怒声を発した。


さすがに芳くんは自分の名前を大声で呼ばれたのに気づき、ゆっくりと顔を上げた。


「――?」


ヤバイッ!


私とカズくんは目を見合わせた。


すると私は、咄嗟に立ち上がっていた。


「先生! 佐取くん、気分が悪いそうなんです。保健室、連れて行きます!」


先生には有無を言わせず、ぽかんとしている芳くんの手を引き、私たちは教室を出た。


「……なに?」


目をこすりながら、眠っていたせいか鼻声で彼は尋ねてきた。


「先生に怒られたんだよ。私たち、逃げてきたの」


「……あー」


そう言って目をつむり、あたまを左右に振る芳くん。

「保健室行こ。勉強してて眠れませんでしたーって言えば、ベッド貸してくれるよ」


寝つきの悪い私が、今までたまにやってきた手だ。

「あー、ベッドで寝てぇ」

「うふふ。そうね。じゃあ、行こ」


「うん」 


私は彼の言葉にうんうんと頷き、さっき教室を出た時にとった芳くんの熱い手を握りながら、一緒に保健室へと向かって行った。