「よー、おはよー」


教室へ入るなり、まだ眠たげな目で片手を挙げ、芳(よし)くんが声をかけてきてくれた。


昨日できたばかりの、友だち。


「おはよー。何、眠いの?」


私が席にカバンを置くと、斜め前の席の芳くんは机にうつ伏した。


「あー。寝てねーんだ」


「勉強でもしてたの?」


すると芳くんはあたまをフルフルッと振って、


「寝つき悪くてさ。眠れなくてイライラしたから、朝までずっとマンガ読んでた」


と、まだイラつきを見せながらも、半ばまどろんでいるようだった。


「私も寝つき悪いよ。だから、その気持ち、よく解るわ」


私、そのせいで、始業式に遅刻したんだ。


すると、私の言葉に彼は少し顔を上げ、振り返った。

「解るか。辛ぇよな」


「うん。非生産的な時間だよね」


「本当だよ。まったく。バカヤロー」


機嫌、悪ぅ。


昨日は少年みたいで、笑顔の可愛い男の子、なんて思っていたけれど。


今日の芳くんは、悪ガキだ。


暴言を吐くと、彼はまた自分の机にうつ伏して、動かなくなった。


「おはよう」


やがて、カズくんが登校してきた。


「あ、おはよー」


私は芳くんがそんな状態だったので、誰ともしゃべることなく、ぼーっとしていたところだった。


「なんだ、芳は。また完徹したのか」


背の高いカズくんは、芳くんを見下ろして言った。

「また? またって、よくやるの?」


ゆっくりとした動作で彼は席につくと、ああ、と頷いた。


「芳とは、去年も同じクラスだったんだが、朝から眠ってて……そのまま放課後までぶっ通しで眠ったままってこと、よくあった」


ツワモノ……。