スッと音もなく襖が開き、部屋の電気が付けられた。
急に明るくなった室内にまぶしげに目を細めながら、茜は、入ってきた人物の方にゆっくりと視線を巡らす。
夕食用のお膳を持った敬悟が静かに近付いてくるのを、茜は死んでしまったような光の無い瞳で見上げた。
その茜の顔にチラリと視線を送った敬悟は、無表情で座卓の上にお膳を置くと静かに口を開いた。
「食べておけ……」
「……いらない」
本当は話すのも嫌だったが、これ以上話しかけられたくなくて、茜は膝の上で組んだ自分の指先に視線を移して、ポツリとささやく。
「食べておかないと、いざと言う時に何も出来ないぞ?」
その声はごく穏やかだ。
いつもと変わらないその穏やかさが、茜の癇に障った。
「い……ざ?」
押さえていた感情の留め金が、ぷつんと音を立てて吹き飛んでしまう。
「いざって、何!?」
茜は、畳を蹴るように立ち上がると、敬悟に詰め寄り、その表情のない顔を睨み付けるように見据えた。
「今以上に、いざって言う時なんかあるのっ!?」