「あの、お食事、ご主人を待たなくてよかったんですか?」
あの伝説が本当のことなら、お香には夫がいるはずだ。
でも、今この部屋で食事をしている家人は、お香だけである。
つまり、食卓を囲んでいるのは、茜、玄鬼、お香の三人。
「え?」
茜の質問に、お香は一瞬驚いたように目を見開き、その後少し憂いのある笑みを浮かべた。
「旦那様は、半年ほど前に亡くなりました。他に身内はいないので、この家には私一人なんですよ」
え!?
旦那さんが亡くなって半年!?
それじゃあ、もしかして……。
茜は玄鬼に目配せをしたが、当の玄鬼は、魚料理に舌鼓中で我関せずだ。
ごくり。
茜はつばを飲み込んで、おそるおそるお香に尋ねた。
「あの、もしかして、誰かに結婚を申し込まれているなんてこと……ないですよね?」
「あらいやだ、噂になっているの?」
お香の白い頬がポッと朱に染まるのを、茜は複雑な気持ちで見つめた。