麗香、ここでは『お香』と言う名前だが、商人だという彼女の家は、かなり裕福なようだ。
広い屋敷に、手入れの行き届いた美しい庭。
その庭には、お香が丹精しているのだろう、美しい草花があでやかな花を咲かせていた。
玄鬼の説明によると、『佐伯麗香は、あの伝説の鬼女と同じ魂を持っている』のだそうだ。
鬼女の魂を持つ女。
その鬼女の鎮魂のために建てられた神社。
そこに、『守りの石』を持った茜が足を踏み入れたことで、鬼伝説が生まれたこの江戸時代に引き込まれたのだろうと、玄鬼はそう言った。
「お前、鬼女に同情していただろう、あれが一番の原因だな。死んだ者を可哀想だと思うと憑かれるのと一緒だ」
茜は、魚の甘辛い煮付けを口に運びながら、玄鬼の言葉を脳内で反芻した。
う~ん……。
玄鬼は私の力だと言ったけど、結局は、石の力なんじゃないのだろうか?
それとも、他に何か原因があるの?
分かったような、分からないような。
それが、茜の正直な感想だ。
だいたいが、『同じ魂を持っている』という概念がイマイチよく分からない。
ただ、玄鬼の言うことが本当なら、『悲劇』は今から起こる。
それだけは理解した。