泊まる当てのない『自称曲芸師の兄妹』の茜と玄鬼は、『家で良かったら、お泊まりなさい』との彼女の有り難い言葉に甘えることにした。
茜のジーンズとシャツというこの時代には奇抜だろう服装も、『曲芸を生業にしている』との玄鬼の口から出任せを怪しまれることもなく、すんなり済んでしまった。
ちなみに玄鬼は、黒い毛皮のコート……ではなく、現代の『作務衣』のような濃紺の着物を着ていた。
「でも、元気になってよかったこと。遠慮しないで、たくさん食べてね茜ちゃん」
「あ、は、はい。ありがとうございます!」
麗香の笑顔に、茜は返す笑顔がヒクヒク引きつった。
すでに日が陰り、薄暗い室内には、ぼんやりとした蝋燭の明かりが灯るだけだ。
そのゆらゆらと揺れる明かりに照らされて、茜の目の前には、時代劇で見たような食事風景が広がっている。
料亭で出るような背の高いお膳に、ご飯とおみそ汁、煮魚、漬け物などが並んでいて、どれも皆、美味しそうだった。
「いただきます!」
腹が減ってはなんとやらだ。
茜は、有り難く頂くことにした。