茜が寝かされていたのは、簡素な六畳ほどの和室だった。
麗香は『ゆっくりお休みなさいな』と笑顔を残し、夕飯の支度をするからと部屋を出ていった。
見知らぬ男と二人で部屋に残された茜は、布団の中で半身だけを起こして、周りをゆっくりと見回した。
小さな床の間には、見たことがない薄紫の花が一輪飾られている。
開け放たれた障子の向こうには、目の覚めるような青空の下、のどかな田園風景が青々と広がっていてた。
そこを、爽やかな風が渡り、緑の匂いを運んでくる。
遠くに農作業をしている人影が、ぼつりぽつりと見えた。
そして感じる大きな違和感。
電柱が一本も立っていないのだ。
それだけじゃない。
およそ、『現代文明』を感じさせるものが、何一つ無い。
「ここ、何処なの?」
呆然と呟く。
「鬼志茂だ。ただし、江戸時代のだけどな」
「え、江戸時代!?」