「茜、茜!」
う……ん?
誰?
知らない、低音の男の声。
「茜!」
自分を呼ぶ声に、茜はゆっくりと目をあけた。
でも、視界がぼやけて上手く像を結ばない。
白い視界の中で、黒い人影が自分を覗き込んでいるのだけが、かろうじて分かった。
「だ……」
誰? と聞こうとするが、声が出ない。
「茜?」
だんだんと、ぼけていたピントが合ってくる。
浅黒い肌。
長めの黒髪。
少しつり加減な、大きな黒い瞳。
精悍な顔立ちの青年が、自分を心配げに見詰めていた。
「あなた……誰?」
「気が付いたか」
男が、ほっとしたように呟く。
「妹さん、気が付いた?」
あれ?
この声。
茜は、聞き覚えのある涼やかな声の主の姿を求めて、視線を巡らせた。