「へぇ、大学の研究テーマに『鬼伝説』ねぇ」
駐車場の隅に設置されている木製のテーブルとイスだけの簡素な休憩所。
敬悟の話を聞き終えた美貌の雑誌記者・佐伯麗香(さえきれいか)は、茜が自販機で買てきたペットボトルのお茶を一口口に含み、そう言って微笑した。
その笑いは、郷土資料館の渡里老人ほど人が良くなく、明らかに疑いの成分が含まれている。
麗香はシンプルな白いカットソーに包まれた豊かな胸の前で腕を組むと、敬悟と茜をまじまじと見比べて、再び敬悟に視線を戻したあと愉快そうに口を開いた。
「それで、『キガクレノサト』のことをどうして知りたいの?」
ん?
と、麗香は形の良い弓形の眉を片方上げる。
うわ。
ずばっと核心だ。
まさか『そこに鬼に石を持ってこいと言われたから』とは言えない。
茜は固唾を飲んで隣に座る敬悟の横顔を見上げた。