「なんだか昼間のメロドラマみたいな、どろどろ展開な話だったね……。あの城主ってヤツ、最低!」


郷土資料館を後にして、車で十五分ほどの鬼志茂神社への移動中、茜は渡里老人から聞いた言い伝えを思い出して、一人むかっ腹をたてていた。


聞けば聞くほど、その城主が諸悪の根元にしか思えない。


茜にしてみれば、鬼と化した『美しい女』の方に、よほど同情してしまう。


「まあ、良くある話じゃな。何よりも己の欲が一番。今も昔も人間の本質なぞ、そんなものじゃて」


「何だか見てきたような言い方だね、玄鬼」


「見てきておるからな」


「え!?」


江戸時代って、そんな前から生きてるの、このネコマタは!?


茜は、膝の上でニヤリと笑う玄鬼に、驚きの眼差しを向けた。


「なんてな。冗談じゃ」


何だか遊ばれている気がする。


茜は、思わず肩の力が抜け落ちる。


「神社が見えてきたぞ」


敬悟の言葉に、一人と一匹が窓の外に視線を走らせると、そこには都会とは思えない緑深い森が広がっていた。


少しくすんだ青い空をバックに、赤い大きな鳥居が深い緑の中でそこだけくっきりと浮かび上がっている。


『鬼志茂神社』


「大きいね……」


思っていたよりも大きな佇まいのその場所に、茜は言いようのない威圧感を感じていた。