「え? キガクレノサト?」
渡里老人は、敬悟の質問に驚いたような声を上げた。
「はい。たぶん『鬼』に関係する地名だと思うんですが、なにかご存知無いでしょうか?」
「こいつは驚いた。こんな日もあるんだなぁ」
老人のシワに埋もれた人の良さそうな細い目が見開かれた。その目の中には、楽しげな少年めいた光が揺れている。
「は?」
敬悟には、老人の言葉の意味が飲み込めない。
「いや実は、ほんの三十分ほど前に同じ事を聞いてきた女性がいてね」
「え……、同じことって、『キガクレノサト』についてですか?」
「ああそう、その『キガクレノサト』だ。なんでもミステリー雑誌で『鬼の特集』をするとか言っていたな」
雑誌で『鬼』の特集!?
驚いた茜と敬悟が目配せしあう。