店の外にでると、ビュネは
「う~ん。どこ行こっか?」
と尋ねてきた。
デートなどしたこともない私には、こういう時にどこへ行くものなのかさっぱりわからな
い。
「今は…六時半か。微妙なとこだな」
時計を見ながら、いかにも何か考えている素振りをしたが、実は何も考えていなかった。
お前が決めろと念を送っていたのだ。
そんなことをするなら考えていたほうが良かったと、今なら思う。
だが私は念を送っていたし、それはビュネに届いた。かもしれない。
程なくしてビュネが
「よし、こっち」
と歩きだしたのだ。
土地勘も知識もない私は置いていかれないように、早足で移動するビュネを追いかけた。
「どこに行くの?」
行く先を言わないビュネに、私は聞いてみた。
「ん~。どこにしようかと思って。お腹は空いてる?」
ビュネは何も決めていなかったようだ。
何故歩き出したのかさっぱりわからない。
「さっき何か食ってなかった?それよりどこへ向かっているの?」
「あは。わかんない」
こいつはアホだ。そう思った。
何も考えていないのにまだ歩くのをやめないのか。
これじゃあ、どんな店があっても入れないじゃないか。
心の中で故障をつけていると、いつの間にか公園についていた。
線路沿いの公園で、隅には浮浪者の家がある。
夏のおかげで辺りは薄暗い程度で済んでいる。
「ここで決めようぜ」
ベンチを見つけた私は、ビュネにすわるよう促した。
彼女が腰かけるのを見てから、私は飲み物を買ってくるよとその場を後にした。
近くにあった自販機で、コーラと緑茶を買って、ベンチまで戻る。
ビュネはカバンをごそごそやって何かを探しているところだった。
「ただいま」
そう言って私は茶を手渡した。
「ありがと」
鞄から小物入れを取り出して、ビュネは受け取った。
そして先ほどの小物入れを開けて、錠剤とおぼしきものを取り出して口にいれた。
私は、その様をずっと見ていた。
茶を口に含んで、薬を飲み下すビュネを、ただ黙って。
「そういえば、どうしてこっちへ来たんだ?東京に住むの?」
一息ついて落ち着いたビュネに、私は問いかけた。