「ねえ、今から渋谷まで出られる?」
受話器からはそんな声が聞こえた。
午後五時を告げる鐘が鳴っている。
何かをするには半端な時間だったが、私は迷わず返事をした。
「ああ、すぐ行くよ。どこに行けばいい?」

待ち合わせを手近な飲食店に決めると、私は準備もそこそこに家を出た。
到着予定時刻は六時過ぎ。帰る事を考えたら、ほとんど何も出来ないだろう。
だが、都会ならいくらでも暇つぶしはできるはずだ。
そういう考えが頭にあった私は、まったく不安はなかった。

駅を出て少し歩くと、ビュネの指定した店に着いた。
私は懐から携帯電話を取り出して、ビュネにかけた。
「あ、ついたの?」
店の前にいると伝えると中に入るよう促された。
店は中高生でごったがえし、隙間を埋めるようにサラリーマンがコーヒーを飲んでいる。
店内を見回すと、一際異彩を放つ女が目についた。
一言でいうならば、派手だ。
もっとも、他にいいようがないが。
キラキラと輝く茶色い髪、ピンクと黒を基調にした、見たこともないような服。
ビュネが着ていなければ服だとわからないかも知れない。
派手で奇抜な格好はしていたが、決して悪くはなかった。
ビュネのひととなりを多少は知っている私には、よく似合っていて可愛いとさえ思えた。
写真で見るのとはまた違う、本物のビュネを前にして、私は驚きよりも嬉しさが先にたっ
た。
「おまたせ」