「アンタ、みづほさんの気持を考えたことあるんですか」

ハリーは私に食ってかかった。
当たり障りのない、ああだのうんだのとしか返事をしない私に業を煮やしたのだろう。
ハリーの発言を受けて、私の冷めた心にようやく火が入った。
進むべき道を見失った私の前に、道を照らすあかりが灯ったのだ。

この男は、ビュネを本名で呼ぶような仲だ。
近頃、なんとなくビュネと疎遠になっていたような気がしていたが、この男と乳繰りあっていたのだろうか。
色々と考える余裕が出るにつれ、次第に腹が立ってきた。
ろくに名乗りもしないで私を罵倒し続けるハリー。
思い出したように謝罪の言葉を吐き出すビュネ。
そうだ。私は怒っていいのだ。

「ハリー君…だったかな?君は一体何者なんだい?」

ビュネは後回しにして、私はまずこの男をやっつける事にした。
が、私の問いに答えたのはビュネだった。
早稲田の学生で、私より二つばかり歳上だという。
まだ続けようとするビュネを、私は遮った。

「ハリー君に聞いているんだ。黙ってろ」

ビュネが黙ると同時に、ハリーが口を開いた。
しかし、それは私の質問にたいする返答ではなかった。

「そんな言い方ないでしょう。彼女がかわいそうだ」

どうやら、ハリーという男も底が知れた男のようだ。