「それじゃあ、俺も鬱なのかも知れないね」

私がそういうと、ビュネはどうしてという顔をした。

「診断されていないだけで、病んでるのかも知れないだろ?似た者同士はひかれあうって
いうし」

「それは違うと思う。よくわかんないけど」

ビュネは八重歯を覗かせていたずらっぽく微笑んだ。

反論しようかと思っていた私だが、そんな笑顔をみせられてはかなわない。

安堵にも似た脱力感をおぼえ、私は姿勢を崩して空を見上げた。

街の灯が星屑のようにあちこちに散りばめられている。

あたりはすっかり暗くなっていた。

懐から携帯電話を取り出し、時間をみる。

「もう八時近いな」

「真っ暗だねー」

ビュネは楽しそうだ。

「どこかに行くんだっけ?」

一時間も話していたのに、行く先も上京の理由も解決しなかった。

いったいどれだけ実りのある会話をしたというのだろう。

「カラオケにいこう」

そういってビュネはベンチから立ち上がった。

私が立つと同時に、広場に向かって歩きだした。

「ここらへん、詳しいの?」

「ううん。ユーコと遊んだくらいだよ」

ユーコは、ビュネ独自のネットワークの中の一人で、変なバンドを組んでいて、なおかつ
ガンダムが好きだという変わり者だ。

スリーピースバンドで、メンバー全員が鬱病で、なおかつ全員が肉体関係を持っていると
いう、音を聞く前からおなかいっぱいの感があるやつらだ。

話はビュネからよく聞くが、互いに話したことはない。

「あたし、ユーコの隣の部屋に住んでるんだ。親がマンション持ってるっていうから借り
たの。安くね」

「へえ、そりゃすごい」

そんなことを話しているうちに、店に到着していた。