「――実はあたし、花火苦手なんです」


「へ?」


「大きい音が昔から苦手で――怖いんですよね。変な話ですけど」


そんなあたしの話に、先生は可笑しそうに口もとを押さえた。

暗くなった夜空に、赤や緑の大きな花が代わる代わる咲き乱れている。


「じゃあ、近くで花火を見上げることなんて、もってのほか?」


「ですね...だからほんとは、今日も焦ってました」


「おれは何も知らずに奇跡を起こしてたんだな」


そうなんです、と、あたしは展望台の手すりに、前のめりになるようもたれかかった。

すると先生は、あたしの後ろから、抱えこむように腕を回してきた。


思わず、心拍数がはね上がる。


「なんか――近くないですか?」


「そう?普通ふつう」


「だって、周りにも人がいるのに――!」


「大丈夫。花火に見とれて――誰もおれらのことなんて見てないよ」


先生はここぞとばかりに、あたしの耳元で低い声でささやいている。

あたしは耳をふさぎたくなるくらい――ドキドキして、どうしようもなかった。


鮮やかな火花が夜空に花開いて――後から、はじける小さな音が響いた。