「彰平、先生...」


なんだか、名前を呼ぶのは恥ずかしくて。

胸が変にドキドキして、頬が熱くなるのがわかる。


よくできました、と言わんばかりに、先生はあたしの頭をまたなでた。


「――おれ的には、しょうちゃん、とか希望なんだけどな」


「年上の人に、ちゃん、ってのは無いですって」


「くそ真面目だなぁ。でもおまえのその、敬語もやめれば?彼女なんだから」


彼女。

先生の口から初めて聞くその素敵な響きに、あたしはじーんとなった。


でも。


「でも先生!先生だってあたしのこと、おまえってしか呼ばないじゃないですか――」


横で先生は、ぎくり、といった表情になっている。


「先生こそ、あたしの名前知らないんでしょ!」


「ばか、そんなことねぇよ」


景色は移り変わり、もうずいぶんと郊外のほうまで来ていた。

さっきまで遠くに見えていた真っ白な入道雲が、少し形を変えて――すぐそばまで迫っているように見える。


「おまえがおれのこと、ちゃんと名前で呼んでくれたら――おれも呼ぶよ」


先生は卑怯だ。

子どもなあたしをいつもからかって。