お昼を食べたら、普段慣れないリップグロスはすっかりおちてしまった。

もちろん、ぬり直すこともできたけれど――



「どこに行きたい?」


「えっと――どこでも!」


それからふたりで街を歩いて、小さな雑貨屋に立ち寄った。

店に入ってすぐに目についたのが――

ぼんやりとあたたかな灯りの中に浮かび上がった、小さな紫水晶。


「――きれい」


「ほんとだ」


白熱灯のオレンジ色の光を乱反射して、なんともいえない輝きを出している。


つまみ上げてみると、それは華奢なつくりのピンキーリング。

女の子の本能がそうさせて、あたしはそれを左手の小指にはめてみた。


手をかざして光に透かすと、キラキラと瞬いて見えた。


「買ってやるよ」


先生はあたしの指から、ひょいと指輪を持ち上げた。


「え、でも――」


そうは言ってみたものの、内心、嬉しさを隠せなかった。


初めて買ってもらうプレゼント。

初めて買ってもらう指輪。


「――大事にします!」


あたしは誰にも渡すまい、と、アメジストの指輪を胸に深く抱きしめた。