「門限は、8時だったか?」


「は、はい――」


「おまえん家ってどこらへん?」


「あ、あの、条南中の近くの本屋のそばです」


「――わかった」


今は夕方5時すぎ。


「じゃあ、8時までに家に着くようにおまえを本屋に降ろせばいいんだな」


なんだか――ドキッとしてしまった。

先生が、あたしと一緒にいようとしてくれている。


「昨日はビックリしただろ」


先生は笑った。
あたしはふうっとため息をついた。


「――そりゃあ、もう」


そこでようやく、あたしはほっとすることができた気がする。


「驚かせて悪かったな――でも、おまえをからかうのが面白くて」


こうして先生の隣にいたって、やっぱり昨日のことは夢だったんじゃないかって思ってしまう。


そんなあたしに気づいたのだろうか。

先生はコホンとひとつ咳ばらいをして――前を向いたまま恥ずかしそうにつぶやいた。



「――いや、好きだよ。おまえのこと」



あたしは驚いて先生を見つめた。

でも先生は、前を向いたまま目を合わせようとしない。




前言撤回です、神さま。


――どうか、夢ではありませんように。