『海でも行こうか』


晴れた青空が、フロントガラス越しに広がっている。


『はい!』




港に着くと先生は車を停めて、戸惑うあたしの手をひいた。


『こっち』


でも、先生が案内したのは海とは逆方向の、草木生い茂る小さな公園。

ベンチに腰かけて空を見上げると、柔らかそうな白い雲がひとつ。


なんだか、わたあめみたい。

そういえば先生に片思いしてたころに見上げた空にも――こんなわたあめみたいな雲があったなぁ。

あの頃は、甘い恋がしたいなんて思ってたっけ。


でも――じゃあ今は?

誰かの声が聞こえた気がして辺りを見回すと、あたしのすぐそばに先生の顔があった。


『目、閉じて』


こ、これはまさか!

ファーストキッスの予感!

とまどうあたしの手をそっと握って、先生は繰り返すように言った。


『大丈夫。目、つむって?』


近くで見る先生の顔にドキドキして、あたしは思わずギュッと目をつむった。

速くなる鼓動が抑えられない。


まぶたを閉じる前に見た最後の景色は――青い空に浮かぶわたあめと、先生の笑顔。


『――好きだよ』