「――え?」


頭の中がまっしろになるっていうのは、きっとこういうことなんだと思う。

身体中の血液が、一気にギュッって、心臓に集まったみたいな。


「――零?」


その時のあたしには、アキの声なんか耳に入ってなかった。

ただ指先が急に冷たくなって、小さな震えを感じてたぐらいで。


「ねぇ、れーいっ!」


アキに肩をたたかれて、ようやく我にかえった気がする。


「ああ、ごめん、アキ...」


この漢字、あたし読める。

「かくじょう...」


「え、鶴って、カクって読み方もあるの?」


アキは驚いたように、しげしげと招待状を眺めている。





そう、鶴城。
鶴の城って書いて、カクジョウって読むんです。



珍しい名字だろう。
読めないことはないんだけど、よく読み間違えられる。

すぐ横で、そんな声が聞こえる気がした。



うちの大学のOB。

ひとみ先輩の4コ上。





胸を焦がしたあの日々が、


鮮やかによみがえった。