11時、ちょっと過ぎ――

あたしは今までにないくらいガチガチに緊張して、先生を待っていた。


大きめのダッフルコートに、お気に入りのチェックのスカートとこげ茶色のブーツ。


結局――

やっぱり精一杯のオシャレをしてきてしまった。


これで少しは、大人っぽく見えるかな。



11月とはいえ、やはり景色は冬そのもので、

街路樹はすっかり葉を落とし、裸になった枝を寒々しくゆらしている。


吐く息も、もう白い。


冷たくなった手を暖めようと、あたしが指先をさすったとき、


「悪い、待たせたな」


あたしの手の中に、何かが放り込まれた。


「あ、ホッカイロ――」


それはあったかい、ホッカイロ。
先生はもう、背を向けて歩き出している。

あたしも急いで、その背中を追いかけた。


「今日は夕方まで数学漬けやぞ」


「夕方まで!?」


「当たり前だ。受験生!」

先生の広い背中を見ながら、あたしは笑いをこらえるのに必死だった。

夕方まで、一緒にいられる。


さっきまでの緊張は、うそのように消えていた。