「――どこに行きたい?」


誘ったのは先生のくせに、あたしにそんなことを聞いてくる。


「どこでも...遠くへ」


「デートプランなんて、なんにも用意してないぞ。おまえが来るとは思わなかったから」


そんなことを言われたら、

改めて、あたしが取り返しのつかない地点まで足をふみいれてしまったことを痛感してしまう。


でもそこに、後悔はなかった。

安堵と、喜びと――少しの、不安があるだけ。


「先生と一緒なら、どこだって行きますよ」


そう静かに笑いかけると、先生が優しく指をからめてきた。

あんなに恋焦がれたこの指先が、今あたしに触れている。


不思議な気持ちだった。


「じゃあさ、海か山か――それか北か南か。どこがいい?」


移り行く窓の景色を眺めながら、少しだけ考えた。


「...海に行きたいです」


もう、季節は秋。

でも冬を目の前にした冷たい海が、見たかった。