散々迷ったあげく、クリスマスイブに渡せなかったあのネクタイを、こっそりカバンの中に忍ばせた。

あと、先生からもらった指輪も一緒に。





指定された待ち合わせ場所で、先生の車に乗り込むと、意外にも先生の表情はかたかった。


「――来ないかと思った」


口元に手をあてたまんま――深いため息とともに、先生が心底安心したような声を出したから、

あたしはもうさっそく泣きそうになってしまった。


あたしは間違いをおかそうとしているけれど――

このあたしの気持ちは、やっぱり間違ってはなかったんだ、って思えたから。





もうあたしのものじゃない助手席は、

黒い革張りのシートがひどく冷たく感じられて、あたしが座るのを拒んでいるようだった。


ひとみさんの指定席。


あたしのものだったそれを取り返してみたところで――ちっとも、気持ちが晴れない。

むしろ、自分でもよくわからないけれど、あたしの気持ちは沈んでいく一方だった。