「――直木賞作家か」


突然の声に驚いて顔をあげると、そこには先生がいた。


「なんでっ...!」


運よく周りに人はいなかったのだが、図書館の中にしては迷惑な声をあげてしまった。


「声でけぇな」


「あ...すみません...」


あたしは慌てて声をひそめた。


「――なにしてるんですか、こんなところで」


「調べもの。おれもここのOBだからな」


胸がドキドキして、苦しかった。


“奇跡”や“運命”なんてもの、今までろくに感じたことがない。

でもまさかこんな形で、先生に再び出会うなんて。


それは間違いなく奇跡であり――運命、だったと思う。



そういえば一度だけ、奇跡と運命を感じたことがあったのを思い出した。


あれは、中学校の図書室。

ちょうど今とおんなじように、西日の差し込む図書室で――

先生に、出会った。


あれは奇跡と――運命だった。



それならば同じシチュエーションの今もきっと――運命に違いない。