まさに、憎むべき相手。


「本題に入るけど――彰平の周りをうろつくの、もうやめてもらえない?」


あろうことに、ひとみ先輩はカバンからライターを取り出し――煙草まで吸い始めた。

ここはたしか、禁煙席...だったはず。


「もう、彰平と零ちゃんは終わったものでしょう?」


しかしまあ、ごもっともな意見である。

でもこの胸の中にこみあげてくる、理不尽な思いはなんだろう。


あたしは何も言わず、ひとみ先輩を見つめていた。


もうそこには――以前のような感情は、ない。


「話はそれだけよ。結婚前に、旦那さまによからぬ噂がたっちゃ困るから」


冷たく言い放つと、ひとみ先輩は席を立った。

ふと気がつくと、何も言い返せなかった自分を悔んでいるあたしがいる。


その後ろ姿を見送りながら――あたしの中に、またあらたな思いが目覚めていくのを感じた。

それは、持ってはならない感情だったに違いない。



ゆえの――過ち、だった。