アキの家を出て、雄太に電話をかけた。

こんなにも、耳にあてるケータイを重く感じたことはない。


『――もしもし?』


雄太は、あたしの浮気にも似た感情を知っているとは思えないくらい――穏やかな声をしている。

それが今のあたしにはつらくて、胸がちぎれそうなほどだった。


あたしはどれだけ、優しい雄太を苦しめていたのだろう。


「あ、あのね...今から、そっちに行っていい?」


『うん。亜樹ちゃんとの話は終わったの?』


「ああ、うん...」


あたしは心を決めた。

雄太と、ちゃんと向き合わなければならない。


雄太に――これ以上、優しいうそをつかせないためにも。


それは一番あたし自身が、しっかりしなくちゃいけないことだった。

もう二度と、先生に心を動かされるまい。


「待っててね。すぐ行くから」


そう口にした瞬間、あたしの両の目からぽろぽろとなみだがこぼれた。


雄太は今まで――

どんな気持ちで、あたしを待っていてくれたのだろう。


ほんの少しだけ肌寒くなった空を仰ぐと、長くのびたひこうき雲が夕焼けに染まっていた。