「あたしは、今度結婚する彼女なんかじゃない――」


もしそうだったら、と思ってしまった自分があまりにも馬鹿らしくて、惨めだった。


周りに――特に、あの男の子たちにだけは見られないように、あたしは急いでなみだをぬぐった。

明日学校で、先生が女を泣かせていた、なんてことが噂になったらたまったもんじゃない。


「あのときは、ああ言うのが一番だろ」


先生は、あたしの頭をなでる手をとめた。


「変にごまかして、余計に深くつっこまれても――お互いに、困るだけだろ?」


そうだけど――そうだとしても。


「どんな思いで、ひとみ先輩の隣に立つあなたを見ていたか――」


あたしは悔しかった。

あたしを捨てた先生に、あたしの気持ちなんてわかるはずない。


「もう、帰ります」


あたしはお金を置いて立ち上がった。


「これ以上会うのも、やめにしましょう」


先生はなにか言おうと立ち上がったが、あたしはそれを振りきるように店を出た。



ありとあらゆるうそが――

あたしの心を苦しめていた。