ところが、花火が打ち上がるとすぐに――先生は、もと来た道を引き返し始めた。

もちろん、花火からは遠ざかっていく。


あたしは不思議になって、思わず尋ねた。


「花火は、いいんですか?」


「いいんだよ。少し遠くで見るほうが」


湖に押し寄せる人の波に逆らうように、先生はずんずんと進んでいく。

あたしも、それに置いていかれまいと慌ててついていく。


「でも――」


近くで見たほうが、綺麗なんじゃない?

そう言いかけて、すんでのところで、止まった。


知らず知らずのうちに、耳をふさごうとしている自分がいる。



――大きい音が苦手。

それは雷に限らず、花火にもあてはまること。


今も変わらず、花火の火薬の弾ける音は苦手だった。


「先生、憶えてたんですか?」


「ん――なにが?」


胸が苦しくて、泣いてしまいそうだった。


「あたしが、花火の音が嫌いだ、ってこと」


空にはまた、満開の花が咲いては散っている。


「――当たり前だろ」


そう、先生は笑った。