あの頃とは全く違う、真っ白の車の中は――あの頃と全く同じ、甘いムスクのにおいがした。



車を遠くに停めてふたりで会場まで歩いていっても、やっぱりお互いに無言のままだった。


会場の湖が近くなってくると、仲良さげに手と手をつなぎあうカップルが目につく。

でもあたしと先生の間には、人ひとり分ぐらいのスペースがあいていた。


最初は、手でもつながれるんじゃないかって、得意の妄想を勝手にふくらましていたから――

なんだか、すっかり拍子抜けしてしまった。


「リンゴ飴でも食べたい?」


露店の看板を見ながら、先生が茶化すように、笑って言った。


「そんな子どもじゃありません!もうあたしも21だし」


そんなことを言っていたら、もうあれからずいぶんと月日が経ってしまったんだなぁ、と改めて感じさせられる。

それは先生も同じようだった。


「――もう21歳か」


「そう。あの頃の先生と、同じ歳です」


そう言っておいて、自分でも少し驚いてしまった。

――先生のいない月日は、あまりにも長かったように思えた。