『――おれだけど』


電話に出ると低い声が耳に響いて、それが夢じゃないことを告げた。


『わかる?』


「――はい...」


わからないわけないじゃない。

だって、あれから6年――あなたの番号とアドレスは、ずっと消せずにいたんだから。


『久しぶり』


「この前、会いましたよ」


『ああ、そうか』


電話の向こう側、先生の笑い声が聞こえる。

ほんとうに、夢のようだった。


不思議と、落ち着いていられるのだが――ふたりとも押し黙ったまま、ずいぶんと時間が経った。

先生が何のために、電話をかけてきたのかわからない。


『――あのさ』


ようやく、先生の声が聞こえた。


『明後日、ヒマ?』


「えっ...」


『花火、見たいから』


この時あたしが迷いもせずに、ふたつ返事でOKしてしまったのは、

雄太との約束にふられてしまった寂しさと――



なにより、先生にまた会いたいという気持ちが、理性より先にあふれ出てきてしまっていたからかもしれない。